zinma Ⅰ



ーーーだから今日シューが来ないことは、僕は知っていた。



それに僕は、やっぱり少しだけ、最後にもう一度シューに会いたかったかな、なんて考える。

それを振り切るように首を振ってから、カリアとファギヌを見上げて言う。


「もう行けます。」



それにふたりはうなずくと、村の人たちにひとつ礼をして、歩き始める。


それに着いて行こうとして、僕は一度だけ振り返る。




見慣れた村の家。

広がる畑と森。

村の人たちの顔。

こちらを見つめるアルマさんの顔。



それから、ここに自分の感情を捨てる。


次に僕が、人間らしい感情を手に入れるのは、この村にまた帰って来る日にすることを決める。



それは、僕の中でうごめく、『選ばれしヒト』の心への侵入を意味する。



それに僕は………






そこで僕はもう踵を返し、二度と振り返らない。



さっきまでの僕なら、ここで泣きだしそうになるだろうけど。


いまはさっきより『選ばれしヒト』の意識が強まったから、何も思わない。


これから先のことばかり考える。



自分が変わってしまったのを怖くも思うけど。

でも………



と、そこで僕は首にかけた石を握る。



これを持っているかぎり、イルトであったことを忘れないでいられる。


いつか、イルトに戻れるかもしれないから。

そのときまで、忘れないように。




< 70 / 77 >

この作品をシェア

pagetop