zinma Ⅰ
イルトが踵を返し村を出て行くのを、シューは家の2階にある自分の部屋の窓から見ていた。
昨日イルトに言ったみたいに、見送りに行くつもりはない。
だって、絶対に引き止めてしまうから。
ここにいてほしいと言ってしまうから。
でもそれはできない。
イルトにとって、この決断は、これからの彼の人生を大きく変える。
そんな気がする。
それを邪魔するなんて、あたしにはできない。
それに、村を出る、と言いに来たイルトの顔は忘れられない。
人よりも、ずっと整ったきれいな顔が、今までにない強さを秘めた、それでいて、はかない、どこか神秘的な雰囲気だった。
それはイルトが、『選ばれしヒト』とかいう物になったからかもしれないけど。
でも、やっとイルトらしくなった、って感じがした。
初めて見た顔のはずなのに、あれがイルトに一番しっくりきていた。
こういうのが運命っていうものなのかな、なんて思う。
そこで、イルトの背中が、森に消える。
ここからは見えなくなる。
次にいつ見ることができるかわからない、イルト。
それに、さっきから頬をつたっていた涙が、よりいっそう増える。
止めどなく、流れる。
大好きな、イルト。
初めて笑ってくれた日に、あの笑顔から目を離せなくなってから、ずっと。
ずっと大好きだったイルト。
イルト。イルト。イルト。
大好きだよ。
そこでシューは、走って家を出た。
見送りには行かない。
向かう先はーーーーー