一瞬


コーヒーをいれなおして2階へ上がる。
兄貴の部屋の前を通る時、声が聞こえ足が止まってしまう。


『さゆちゃんさゆちゃん、大好きだよ。』








聞きたくない。
ここから離れたい。

それなのに足は動かないし震えや何とも言えない怒りでカップを落としそうになる。


分かってた。愛してるのはさゆだけじゃない。

むしろ依存してるのはどちらかというと兄貴の拓。


少し荒れてた兄貴が急に元に戻ったのもさゆのおかげ。




兄貴が真面目になるのも分かる。

さゆと居ると何もかも忘れられるし幸せな気分になれる。

絶対に人の悪口は言わないしいつだって笑顔を向けてくれる。



そしてそんなさゆでも辛いときは兄貴に話を聞いてもらって元気を取り戻す。


そうやってあいつらはお互い支え合って一緒にいる。


割り込むすきなんかない。
分かってるのに。


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