私はダメ人間じゃない~ネットカフェ難民の叫び~
しばらく思い切り笑ったことがない。笑っていても、どこか重い胸をごまかしながらの虚しい声だった気がする。

ずっと眉間にしわを刻みながら、自分の笑い声をどこか遠くで聞いていたのだ。


「しかめっ面してても笑ってても、乗り越える困難は同じでしょ。だったら笑ってたほうが得な気がしない?」


その言葉は、春樹の顔を思い出させた。

めったに苦しい顔を見せなかった。どんなに苦しくても、いつも何もなかったように平然と笑っていた春樹を。

夏子さんの笑いがさらにトーンを増した。


「雪もそう思うだろ」


そう言って振り向いた瞬間、すぐ脇の門扉から大きな犬が顔を出して吼えた。

「ひえ!」

不安定な状態でうろたえた夏子さんは、そのままバランスを崩して尻もちをつく。

その間抜けな悲鳴と表情。そしてあっけない転び方が、私の眉間のしわを氷解させた。

「ぷ!」

春の夜風に私の笑い声がこだました。

「ちょっと、そこは笑うとこじゃないって」

やや目つきを険しくした夏子さんが立ち上がろうとしたそのとき、またしても激しく犬が吠え立てる。

油断していた夏子さんは、またしても素っ頓狂な叫びをもらした。

もう私は耐えられない。私の笑い声も犬の声に負けていない。おかしかった。ただ、単純におかしかっただけだ。

それでも笑いというのは、幸せには必要なものだとはっきり分かった。

「雪、あんたよく笑えるね」

「だって……夏子さんのあの顔……」

帰り道、それを思い出しては私のお腹はよじれるのだった。
< 203 / 203 >

ひとこと感想を投票しよう!

あなたはこの作品を・・・

と評価しました。
すべての感想数:38

この作品の感想を3つまで選択できます。

  • 処理中にエラーが発生したためひとこと感想を投票できません。
  • 投票する

この作家の他の作品

その日の前夜~地球最後の24時間~

総文字数/14,229

ファンタジー29ページ

表紙を見る 表紙を閉じる
それぞれの前夜。 まだ、誰もこれから起こる出来事を知らなかった。
地球最後の24時間

総文字数/112,134

ファンタジー278ページ

表紙を見る 表紙を閉じる
 いつものようにくだらない日常が始まろうとしていた朝、何気なく見たテレビから流れてきたのはとある緊急ニュース。 ――地球はあと24時間で壊滅します。  突然の出来事に混乱する男の頭に浮かんだのは失くしたはずの愛……  そして男は街を飛び出した。  最後の24時間。あなたは何を求めますか?
ダーク&ノイズ

総文字数/136,401

ホラー・オカルト250ページ

表紙を見る 表紙を閉じる
いつからかこんな話が広まった。 お凛がさらいにくるぞ…… いじめから自らを守るために、その扉を開けてしまった少女── 呪いの暴走は、もう誰にも止められない。

この作品を見ている人にオススメ

読み込み中…

この作品をシェア

pagetop