AKANE
(あいつを、フェルデン達と一緒に行かせちゃ駄目・・・!!)
 出発までもう時間がない。
 朱音は縺れる足で何度も転びそうになりながら、城の入り口までこぎつけた。
箱を積んだ荷馬車が、今にも歩み出そうとしていた。
 フェルデンが、息を切らして城から飛び出してきた美しい少年王に気がつき、目を丸くした。詰襟の下に隠されてはいるが、その隙間からは紅く変色した痣がちらりと見える。昨晩我を失ったフェルデンが犯した罪の跡は、はっきりと少年王の首に印を残していたのだ。
「陛下、罪人の見送りにでも来てくれたのですか?」
 深く被ったフードの下から、アザエルが微笑を浮かべて言った。
「本当はあんたの顔なんて見たくもないよ。でも、あんた、今度は一体何を企んでるの?」
 額に薄く汗を滲ませながら、朱音はつかつかと魔王の側近に近付いていった。
フェルデンとユリウスは不可解そうに二人の様子を見ている。
 ユリウスは、少年王がここにいる魔王の側近を快く思っていないという事実に少々驚いていた。
「サンタシへ向かう途中二人を殺して逃げるつもり? それとも、二人を人質にとってサンタシに先制攻撃でも始めるとか?」
 大きく黒い瞳に怒りの色を見え隠れさせて、朱音はアザエルをきっと下から睨み上げた。
「ふ・・・、どこまでもわたしは信用されていないようですね」
 アザエルはほとんど変わらない表情のまま、くすりと鼻で笑った。
「あんたが諸悪の根源だってことはわたしでもわかる!」
「陛下〜!」
 後ろから灰の髪を揺らしながら、従者の少年がぱたぱたと駆け寄ってくるのが見える。
「酷い言われようですね。でも、今回は本当に素直に身柄を引き渡されますよ。わたしとて、ルシファー陛下が御自分の命と引き換えに守ったゴーディアを、危険に陥れることなどしたくはありませんからね」
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