AKANE
「失礼ながら・・・、クロウ陛下がお目覚めになってからはまだ時間がそれほど経過していません。それに、まだ体調も万全ではないようですし、元老院もそれを念頭に置いたのではと・・・」
 遠まわしな言い方ではあったが、ヘロルドが言っているのは少年王の魔力についてのことであった。少年王の身体から魔力が感じられないことに、城の中の者達も薄々勘付き始めていた。
「なんですって!? 陛下の魔力をお疑いですか!?」
 ルイは憤慨した。
「そういう訳では・・・」
 顔色を伺うかのように、姿勢をますます屈めて、痩せた男は数回瞬きした。
「では、どういう意味です?」
 ルイの強い口調に、ヘロルドは再び下品な笑いを浮かべた。
「物分かりの悪い元老院の年寄りどもに、クロウ陛下の強大な魔力を見せ付けてやるというのはどうです? さすれば、怖れ慄き、陛下の偉大さを改めて認識するでしょう」
 ヘロルドの狙いはまさにここであった。魔力の存在を感じられない少年王に、疑惑を感じ始めていたのだ。
「それはできません」
 返答に困る朱音の横から、ルイがはっきりと言い放った。
「陛下は来たるべきときに備え、今は魔力を最小限に抑え、温存しておられるのです。それに、こんな内輪で揉めるなど、持っての他です!」
 この従者の少年は、見た目は愛らしい少年のようだったが、アザエルが朱音の隣につけただけのことはある。なかなかの器であった。
「ほお・・・。ただの従者の割にえらく大きな口を叩くではないか! しかし、少し位の魔力なら問題はないでしょう。ここでこの国の最高権力者が誰なのかをはっきりさせておかねば、苦しくなるのは陛下です」
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