AKANE
3章 旅編

1話 追いつ追われつ

 ゴーディアの夜風は冷たく、朱音とルイは唇を真っ青にしてがたがたと震えていた。
「やはり寒かったですか、どこかで暖をとらねばなりませんね」
 クリストフはいつもと何ら変わらぬ様子で言った。
「クリストフさんは寒くないの?」
 朱音とルイは痩せた美容師がさして暖かい格好をしているわけでもないこともあり、なぜこうも平然としていられるのか不思議でならなかった。ましてや、細身の彼は、体脂肪がある訳でもないというのに。
「わたしは風に乗ることには慣れっこなんですよ。少しくらいの寒さなら平気です。しかしそれよりも、人を乗せた風を操るというのはなかなか集中力が要るんですよ。安全に飛行する為には長距離の飛行は不向きでしょうね」
 朱音はどうしてこんな山の中間部で舞い降りたのかとクリストフに訊ねようとしていたところだったが、それはやめておくことにした。
 おそらくは、ここがきっとクリストフの飛行距離の限界点だったのだろう。
 それに、これ以上冷たい風に晒されたとしたら、朱音とルイはきっと低体温症に陥ってしまっていたに違いない。
 ここには明かりの代わりになるものは何も見当たらず、今晩は二つの月も雲に隠されていて、それさえも当てにはならない。
「寒い・・・」
 朱音は凍えながら、がちがちになった身体を両の手で摩った。体の芯から冷え、なんでもいいから温かいものにありつきたい衝動に駆られた。
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