AKANE
「こんな山中に舞い降りてしまい、申し訳ありません。しかし、万が一追っ手につけられてしまったときのことを考え、とりあえず王都からは脱出することが先決でしたので・・・」
 魔城から王都マルサスの上空を飛び、三人は王都を囲むようにしてそびえ立つ、キケロ山脈の山中にいた。
 山と言っても、朱音が見慣れている木々が生い茂るようなものではなく、ところどころ岩肌が露出した、短い草原の広がる山であった。山の頂上付近には雪が降り積もるような山並みである。山道は塗装などされている筈もなく、明かりもない今の状況で突き進むには無理があった。
 それに、山頂まではまだ暫く距離があるように思われるし、そして何より夜があまりに更けすぎていたのである。
「仕方がありません、ここから少し外れた所に、人知れぬ小さな山村があります。そこにわたしの知り合いの家がありますので、今晩はそこで泊めてもらいましょう」
 クリストフは落ち着いた口調のまま、短い草をかき分け山道を外れていく。
 朱音とルイは顔を見合わせ、慌ててその後を追った。
「大丈夫、あそこは村民以外の者には知られていません。さあ、こっちです。ついて来てください」
  

 その頃、魔城では、アザエルの後任ヘロルドが地団太を踏んで悔しがっていた。
「くそう、あのくそ餓鬼どもめ、よくもわたしを出し抜いたな・・・!」
 ヘロルドは昼間の件でひどく腹を立て、唯一の忠臣であるボリスにクロウの寝首をかくように命じていたのだ。












< 120 / 584 >

この作品をシェア

pagetop