AKANE
 観念したように、フェルデンは頷いた。
「わかった。お前の言う通りにするよ」
「はい、安心してください。アザエルが荷馬車の荷を見張ってくれています。もう少し眠ってください」
 何か言いたげな目を向けるフェルデンだったが、何も言わないまま再び瞼を閉じた。
 穏やかな寝息が聞こえ始めると、ユリウスはほっとして丸椅子に腰掛けた。
 昨晩、ゴーディアの元老院から送られてきた刺客に襲われたことは、まだフェルデンに話すのはやめておくことにした。そのことを知れば、この人はきっとまた無理をしてベッドから起き出そうとするに違いない。 
 “アカネに会った”と言ったフェルデンの言葉が妙にユリウスの心に引っかかった。昨晩この青年に付きっきりで看病していたのは、誰でもない敵国の王、クロウに他ならなかったからだ。
 やっと落ち着きを取り戻しつつあるフェルデンに、その事実を知らせる訳にはいかず、ユリウスは沈黙を守ることに決めていた。
「フェルデン殿下、貴方にとって、そのアカネという人は本当に大切な人だったんですね。いつも冷静な貴方の正気をも失わせる程に・・・」




ボウレドの街外れにある小さな店で、朱音は出されたスープとパンを口にしていた。
 今はクリストフは買出しに行って二人の傍を離れており、テーブルにはルイと朱音の二人きりであった。
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