AKANE
ひどく遠い昔の夢のようだった。
いや、あれは遠い記憶・・・?
あの黒髪の少年は遠い昔のクロウ自身、クロウの記憶の断片なのかもしれなかった。
それに、あの碧い髪と碧い目、氷のように冷たいアザエルが、あんなにも優しく微笑むことができていたなんて今からは想像もできない。
しかし、あの夢はひどく懐かしい気がした。
「目をお覚まし下さい、クロウ陛下・・・」
「ごほっ・・・」
気管に入っていた海水を吐き出し、朱音は意識を取り戻した。
飲み物を飲むのに失敗して咽(むせ)たようなひどい苦しさと、そして多量に海水を飲んだことでのむかつきで朱音は胃物を吐き出した。
朦朧とする視界の中で、唯一目に入ってきたのは、碧く長い髪。
「もう無茶はお止しください」
ようやくはっきりと見えてきたところで、朱音は自分が今どこにいるのかを知った。
そこは、船上でもなく、海上でもない、何もない岩の上。ごてごてと尖った岩の上で擦りむいたのか、手足はあちこち擦り傷だらけだ。荒れた波のはまだおさまってはいないようで、空には暗雲が立ち込めたままだ。
周囲は海に囲まれ、何も見えない。流された朱音を目の前にいるアザエルが救出し、この岩場まで運んでくれたようであった。
「アザエル・・・」
朱音は混乱していた。
先程見た記憶の断片のアザエルが、クロウにとってひどく懐かしくそして安心できる存在だった気がした。クロウの記憶が自分のものなのか、それとも彼のものなのか、境目がはっきりとせず、まるで朱音自身がアザエルにそういった感情を抱いているようにも感じた。