AKANE
 ごとりと鈍い音を立て棺の蓋が落とされる。
「なぜだっ!」
 力の入らなくなったフェルデンの手から棺の蓋が滑り落ちたのだった。
 昨日あんなに近くに感じた朱音の気配や心臓の音。言葉こそ交わしはしなかったが、フェルデンは少女が生き返ったと確信していた。
 しかし、その愛しい少女の身体は未だこうして棺の中で横たわっている。
 “わたしはアカネさんの友人です。”
 そう言った暗闇の中の謎の男の声がふいに脳裏に蘇った。
 “貴方は悲しみのあまり、あまりに盲目になりすぎている。もっと心の目で物事を見てみてください。そうすれば・・・真実が自ずと見えてくる筈です。”
 朱音の身体がこうしてここにあることを考えると、あとはもう、一つの可能性しか考えられなかった。
(アカネは別の姿で存在している・・・?)
 金の髪をぐしゃりと掻き乱すと、フェルンデンは近くの積荷の上に座り込んだ。どういう訳かは分からないが、とにかく失ったと思っていた朱音が、自分のすぐ近くにまで戻ってきていたのだ。
(あの男の言う通りだ。おれは、あまりに盲目すぎた・・・。アカネの存在に今まで気付かなかったなんて・・・)
 はっとしてフェルデンは勢いよく立ち上がった。そうと分かれば、もうのんびりなどしていられない。
 アルノの友人ロジャーが連れていた女というのが、きっと今の朱音の姿に違いなかったからである。
 しんと静まり返った船の上を、フェルデンは物音など気にも留めずに一目散にあの部屋へと向かった。この船唯一の客室である。
「アカネ!!!」
 ノックもせずに凄まじい勢いで客室の扉を開け放つ。
 しかし、中は蛻の殻だった。
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