AKANE
 真っ白いシーツはまだ起き出した形のままふっくらと膨れている。シーツを捲り上げると、ここでもふわりと甘いチチルの香りが僅かにした。
 ここに、朱音が眠っていたに違いない、そうフェルデンは思った。
「ひょっとして、ロジャーの恋人とお知り合いだったのですか?」
 背後から声を掛けられるまで、フェルデンはアルノの存在に気付かなかった。
 はっとして振り返ると、物悲しげなアルノの目がそこにあった。
「すみません、フェルデン様が客室の方に行かれるのが見えたもので・・・」
 握り締めていたシーツをもう一度見やり、空になったベッドからフェルデンの頭に良くない考えが過ぎった。
「ここにいた客人は・・・、その王族の姫という人はどこだ・・・?」
 その瞬間、ふっとアルノが床に目を伏せった。
「アルノ、彼女はどこに・・・」
「昨晩、従者の少年とともに海に流されるのを見た者がおります・・・」
 シーツを握り締めている手がわなわなと震えた。
 ほんの少し垣間見た一筋の光が、僅かに手の指先を掠め消え去っていくような絶望感に見舞われた。
「こんなつもりではなかったんです・・・。もう少しわたしが注意を払っていれば・・・。本当に申し訳ありませんでした」
 アルノはがくりと肩を落とし、簡易ベッドにくず折れるように座り込んだ。
 握り締めていたシーツを離すと、フェルデンは息苦しい程の思いを感じた。
「貴方のせいじゃない・・・」
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