AKANE
(こんな巨大な物を飛ばしたことはないんですが・・・、全ては貴女の為ですよ、アカネさん)
 クリストフは相当の集中力と精神力を消費しているのか、苦しそうに眉を顰(しか)めながら風のコントロールに全てを注ぎ込んだ。ちょっと気を抜けば、テントごと地面に落下させてしまいかねない。そんな危うい一か八かの賭け。
 この状態でそう長くは飛べまい。クリストフはリストアーニャの北にある検問所を、少ししけば隣国アストラの砂漠に到達することを知っていた。もともとは、朱音を連れてそこまで行くつもりでいたのだ。
(それまで、このまま堪えられるでしょうか・・・)
 疲労の激しい現状に、クリストフはくっと声を漏らした。
 空に舞ったボリスが何かを叫んでいるようだったが、もはや凄まじい風の音に掻き消され、何も聞こえない。これ程大きな風を操ったのは、クリストフ自身初めての試みだった。
 ごうごうと音を立て、風は全てを飲み込む勢いで吹き続ける。
(駄目だ・・・! もう持たない・・・!)
 懸命に気落ちを集中させようとするクリストフだったが、少しずつ威力を弱める風に、テントはゆっくりと降下しつつある。
 あともう少しで検問所だった。ぐらぐらと揺れならが、テントが地上目掛けて落下していく。
(もう少し!)
 最後の気力で、クリストフはもう一度風に威力を増加させた。
 もう一度高度を増したテントは、検問所の上を通り抜け、少し先の砂漠の砂の上にゆっくりと腰を降ろした。
 全身運動を行ったかのような疲労感に見舞われ、クリストフ自身もふわりと地面に降り立った。ぱらぱらと降下しては地面に転がっていくのは、吹き飛ばされた人達である。
「わああああ」
 しばらくすると、テントの中から蜘蛛の子を散らしたように数百人の子ども達が飛び出して来た。
「見て! 検問所の外だ! 僕ら、売られなくて済むよ!!」
 もう立っている気力も残っていないクリストフは、ふっと口元を緩ませて砂の上に座り込んだ。
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