AKANE
「そうだとすれば、詐欺罪、魔城無許可不法侵入罪、国王誘拐罪全ての罪でお前は審議にかけられる。そうなれば、死罪は免れぬだろうな」
 完全にクリストフを落胆させることを狙った罪状の数々。しかし、当の本人はくすりと笑いを零した。
「何が可笑しい?」
 クリストフの場に似合わない笑いに苛立ったヘロルドは鉤鼻に皺を寄せて言った。
「いえ・・・、気にしないで下さい。こっちのことです」
 ヘロルドのすぐ近くに控えていたボリスが、何かヘロルドに耳打ちをした。
「何っ、それは本当か?!」
 目を見開き、ヘロルドは忠臣を振り返った。
「誠でございます、ヘロルド閣下。このわたし、しかとその者の力、目にしました」
 ふふふと耳障りな声で含み笑いを零すと、ヘロルドはクリストフの捕えられている牢を潜(くぐ)り、中へと足を踏み入れた。
「風を操ることができるとは本当か?」
 落ち窪んだ目がぎょろりとクリストフを見据える。
 クリストフは無言のままその目を見返した。
「まさか、我国ゴーディアの軍の出ではあるまいな?」
 クリストフは言った。
「ヘロルド閣下、貴方はわたしを過大評価しているようです。わたしの力などとるに足りないものです」
 かっとしてヘロルドが唸りたてる。
「嘘を申すな! そこのボリスが、競り市の会場となる程の巨大テントを風で吹き飛ばしたと申していた」
 肩を竦め、クリストフは微笑みながら目の前の痩せたひどく姿勢の悪い男を見上げた。
「白を切る気か! ああ! なんといけ好かぬ奴だ! まあよいわ! 調べればすぐにわかること」
 ヘロルドは疑っていた。巨大テントを吹き飛ばす程の風を操ることのできる男が、元軍人でない筈がないと。そして、これ程隠したがるには何か訳があるのでは、と。
「脱兵者か?」
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