AKANE
「よいか、まだ焦るな。よく引き付け、計画通り油袋を結びつけた投石で敵船をよく狙え! 弓隊は火弓を絶やすな! とにかく船を狙い続けろ!」
 そう言い放つと純白のマントを翻し、フェルデンは勢いよく石壁の急な勾配を滑り降りた。
「敵の歩兵、騎兵は我ら騎士団で落とす!! 続け!!」 
 繋いであった美しい栗毛の馬に優雅に跨ると、フェルデンはとんと馬の腿を踵で蹴って馬を駆け出させた。
 雲の遙か上を、茶色い影が旋回しながら悠々と翔けている。サンタシの王家のみが使用を許される猛禽類バスカ。誉れ高く、本来は手懐けることの難しい野生の鳥であったが、長い年月の間、代々の国王が卵を孵化させ手ずから餌をやり、王家のものにだけ懐くように躾けたのだ。
 バスカは夜明け前にフェルデンの元へ一通の文を届けていた。

“なんとか踏みとどめて欲しい。だが、決して無理はするな。こちらからディートハルトに最強の手持ちの札を持ってゆかせる。それまで無事でいて欲しい”と。

リーベル艦隊壊滅の報せと、ゴーディアの魔笛艦隊の予想を上回る速さでの
ディアーゼ港侵攻の事実を知り、ヴィクトル王が何かしらの有力な手札を送り出したらしかったが、いくらディートハルトといえ、早馬を使ったところで、三日の道のりをたったの一日で到着できる筈はなかった。
 今は、何とか自力でゴーディアの侵攻に立ち向かうしかない。
 後方に続く騎士の先陣に立ち、フェルデンは馬で駆けながら、剣を鞘から抜き去った。
「我が名は、サンタシ国ヴィクトル国王陛下の実弟、フェルデン・フォン・ヴォルティーユ! ここから先は一歩たりとも進めさせん!!」
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