AKANE
 雄たけびを上げながら、フェルデンは剣を持って続々と敵船から降り立つ兵に勢いよく飛び込んで行った。
 海上では激しく敵船に炎が上がり、陸地に到着するまでに火だるまになった敵兵達が、もがきながら海の中へぼとぼとと人形のように飛び込んでいく。
 敵船のあちこちから火の手が上がった。サンタシの投石兵と弓兵の攻撃が成功しているらしい。投石で可燃性の強い薬品の入った袋を結びつけ、敵船へ向けて投石を続ける。そして船に火弓を放つ。薬品に引火し、予想以上の早さで船が一気に燃え上がっていた。
 それでも、そうした攻撃を摺り抜けた船が着々と陸地につけ、ゴーディアの兵がどっと押し寄せ始めている。ここでみすみす侵入を許す訳にはいかない。
 夜明けとともに、激しい戦の火蓋が上がった。



「そんな悲しそうな顔をしないでください」
 くすりと笑みを零すと、クリストフは格子越しに見える、僅かな青空を眩しそうに見上げた。
『ホロホロホロ・・・』
 ちょんと格子の隙間から顔を覗かせた白い鳩は、もの悲しげな声を上げて鳴く。小さな白い友人は、大好きなクリストフの痛ましい姿に心を痛めていた。
「さあ、もうここに居てはいけません。君まで捕まってしまう。わたしは大丈夫、こう見えて案外しぶとい男なんですよ」
 そう言ったクリストフの身体は全身血だらけだった。
 もとは紳士的な清楚な身だしなみであった筈が、捕らえられてから日々繰り返される鞭による拷問で、衣服のあちこちがめちゃくちゃに裂け、剥き出した皮膚は血を滲ませて露出していた。ところどころ紫に変色している部分もあり、顔さえ殴る、蹴るの暴行を受けて腫れ上がっている。
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