AKANE
「ではシモン、わたしはこの地のことをよく知らぬ。わたしの助けになってくれぬだろうか。もちろん、礼はする」
 何を言い出すかと思いきや、この蒼黒の美しい天神は臆病な“ぼく”にこんなことを持ち掛けてきた。
「た、助け・・・?」
 助けを求めていたのは”ぼく”の方だった筈だ。
 ”ぼく”は混乱した。
 天神は、どうやらお告げをしに舞い降りたのでは無かったようだ。
「創造主に気付かれる前に、なんとしてもわたしは地上界というところをこの目で見て歩きたいのだ。それには案内役がいる。どうだ、やってくれぬか?」
 美しすぎる容貌に似合わず、天神は悪戯好きな青年の口振りで、とんでもないことを口にしてきた。
「あ、あ、案内役・・・!? で、でも、天神様・・・、天神様は天上から地上のことはなんでも見ておられるのでは・・・?」
 顔を横に振ると、ルシフェルと名乗った天神は声を顰めて言った。
「それは違う。天上界から地上界を見ることはできないのだ。わたしは創造主から話を聞いて、なんと面白そうなところかと、いつも一度この目で見たいと願ってきた」
 “ぼく”はたまげて尻餅をついた。天神が地上を見てみたいだなんて、考えもしていなかった。
「シモン、手伝ってくれぬか? そうすれば、そなたの願いも一つ叶えてやるぞ」
 悪戯っぽく笑った天神ルシフェルに、ぼくは思わず口を開けたまま頷いてしまっていた。
「そうか! ではシモン、願いを言ってみよ!」
「ぼくは・・・、ぼくは自由が欲しい・・・」

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