AKANE

13話 新たなる国王


 アザエルは止むことなく発させるファウストの攻撃かわしながら、無数の水針を放った。
 ファウストはそれでも攻撃を止めることなく、左の手で炎の盾を瞬間的に創り出し、防御する。
水針は彼の本体に届く前に敢え無くも蒸発して消滅してしまう。それでも尚アザエルは水針を放ち続けた。狙いはただ一つ。中距離戦を得意とする彼との間合いを詰めることにあった。
 反し赤髪の青年は、魔王の側近をこれ以上近付けさせまいと、更に炎弾を繰り出すスピードを増させた。
 完全に避けきった筈の炎の攻撃は、その余熱でアザエルの衣服を次々に焦がしていく。
「アンタを殺して俺はその魔力をいただく! そしてその後はクロウ王だ! 俺は世界最強の力を手に入れてみせる!」
 緋色の眼を細め、ファウストは更に炎弾の威力を増させた。
 すでに王室の窓や外に面した壁は炎弾による被害で取り払われていた。崩れた壁の端はちりちりと火を燻らせている。そして、外気に直接晒された元王室は、ほぼ原型を止めてはいなかった。
 いつの間にか雨は上がっていた。
 なくなってしまった王室の壁のせいで、すっかり見晴らしが良くなってしまった部屋からは、王都のあちこちから煙と炎が上がっている様を一望できる。
 ヴィクトル王は短剣を握る手が汗ばんでいることに気付いていた。
 剣を構え、じりじりと追い詰めてくるゴーディア兵と、目を血走らせたヘロルド。
 魔王の側近と炎を操る青年がすぐ近くでとてつもなく激しい攻防を繰り返していたことは重々承知していたが、追い詰められた背後が壁ではなく、何もないことに気付き、ふとすぐ後ろの足元に視線をやった。
(ここまで・・・ということか・・・)
 カラカラになった鍔を飲み込み、ヴィクトル王は短剣を構えたままヘロルドを鋭い目つきでじっと見つめた。
「逃げ場がなくなりましたな、ヴィクトル陛下」
 大きな口に卑下た笑みを浮かべると、ヘトルドは舌なめずりしてずいとヴィクトル王に近付いていく
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