AKANE
『びゃあ』
 開放的になった王室のすぐ外側で、耳障りな鳴き声が響いた。
「な、なんだ!? ひっ」
 目を丸くし表情を引き攣らせたヘロルドが、ヴィクトル王の背後に釘付けになったように口をぱくぱくと喘がせている。
『びゃあびゃあ』
 今度はすぐ耳の後ろでしたひしゃげた声に、ヴィクトル王は思わず、短剣を握り締めた手で、耳を塞ぎ振り返った。
 尖った嘴に、醜悪な禿げ上がった鳥の頭。巨大鳥ゾーン、王都では滅多に見ることのない凶暴な鳥である。
 ヴィクトル王は、信仰する唯一の神、創造主に感謝した。
 この場でヘロルドなどという愚かな男にみすみす殺られずに済むことを。そして、せめてゾーンに殺さされる前に、この狡賢い男を道連れにしてやれることを。
 しかし、予想に反してゾーンの襲撃はなく、代わりに聞き覚えのある少年の声が聞こえた。
「お久しぶりですね、ヘロルドさん」
「ク、クロウ陛下・・・!」
 状況が全く理解できていないヘロルドは狼狽し、固まったままゾーンの背に乗る少年王の姿をあわあわと見つめた。
(な、なぜこの餓鬼がここにいる!?)
 不意に現れた巨大鳥と、その背に乗る我目を疑いたくなるような美しい少年王に、ゴーディア兵達は目を奪われていた。兵の中で誰一人として魔王ルシファーの顔を見知っている者はいない。即ち、当然のことながら、少年王の顔を知る筈も無かった。
 そして、その存在に気をとられた人物がそこにもう一人いた。
 ファウストである。
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