AKANE
「ええ、勿論可能です。しかし、それではきっとあの竜巻の進路を変えることは・・・」
 そう言いかけて、はっとしてクリストフは口元に薄い笑みを浮かべた。
(なるほど・・・、アカネさん、考えましたね・・・)
 残った体力で風向きを逆に変えることは、相当の精神力が必要である。
 クリストフは深く深呼吸をすると、じわじわと巻き上げた風を逆方向へと吹かせ始めた。
 はじめはあまり変化が見られなかったが、ゆっくりゆっくりと、掻き混ぜた水を逆向きに掻き混ぜるかのように、クリストフの竜巻は逆回転に風を巻き上げ始めた。
 クリストフの息はすっかり荒くなっている。もう、維持するのには限界が近付いていた。
「最後の試みです。さあ、今度こそ上手くいってくださいよ」
 クリストフは、ゆっくりと巨大化する竜巻に自らの竜巻を近づけていく。
 朱音は胸のペンダントを握り締めながら、瞳を閉じてただ風の音を聴いていた。クリストフの起こした、優しい心地のよい風の音を・・・。



< 431 / 584 >

この作品をシェア

pagetop