AKANE
「次は右脚だ。貴様が口を割らなければ、一本一本指を切り落としていくのもいい」
 これ以上の苦しみには、もうヘロルド自身堪えられそうに無かった。
「ベ・・・」
 何か言おうとして口を噤んてでしまったヘロルドに、アザエルは水剣の切っ先を右腿に見えるように宛がった。
 恐怖で震え上がりながら、ヘロルドは涙と血でぐしゃぐしゃになった顔を歪ませた。
「ベリアル・・・王妃・・・から戴いたもの・・・だ・・・」
 アザエルはほんの少し眉を動かした後、ヘロルドの右腿に容赦なく、水剣を突き刺した。
「がああああああああああ!!!!」
 またもや襲ってきた痛みに、ヘロルドは咽び泣いた。
「楽になりたければ全て話せ」
 アザエルの拷問は、ヘロルドが失血死するか、口を割るまで終わりそうには無かった。
 ヘロルドは、痛みに堪えながらも、この苦しみから解放されたい思いで、洗いざらい全てアザエルに口を割った。

 魔族の中でも貴族の家系に、しかも元老院の子として生まれたヘロルドであったが、その肉体には魔力はほんの僅かにも備わってはいなかった。
 容姿も父親によく似て、見た目も良く無い上、痩せ身で運動神経も良くない。更に悪いことに魔力も無いとなれば、親からもよく家の恥だと疎まれた。周囲からも、名ばかり貴族だと蔑まれ、無能な我が身を呪って日々を過ごすのみ。暴力こそしないが、まるで息子がそこにいないかのような父の扱いを受ける度に、いつか父を追い抜いて見返してやると、堪え忍んできた。
 そんな時、ヘロルドの手元に、あるパーティーの招待状が届いた。
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