AKANE

17話 信念を懸けて


 朱音はもう何も怖れてはいなかった。
 今、こうして何より守りたかったその人に必要とされ、手助けできる喜び。そして、きっと最期のときになるであろうこの一瞬一瞬を、どんな状況であれ、この人と共に過ごすことのできる幸せを。神、いや、この世界の言い方に直せば、“創造主”なのかもしれないが、彼の人が朱音にくれた最初で最後、そして唯一の贈り物なのかもしれない。
(この世界に来たときは、自分の不幸を呪ったけど・・・、悪く無かったかもね、わたしの人生・・・)
 風を切って飛ぶスキュラの背に跨り、頼りない朱音の身体を支えるようにして、逞しいフェルデンの腕が回されていた。その手はあまりにも暖かく、そして背中ごしに伝わる温もりと鼓動に朱音はほんの少し泣きそうになった。
 クロウの身体で覚醒した後、もうこんな近くで彼と過ごすことは二度と無いだろうと諦めていたというのに、どういう訳か今こうして二人は一頭の飛竜に乗っている。これは朱音にとって奇跡か夢のようにも思えた。たとえそれが、朱音自身の正体を明かさないままでいることになったとしても・・・。
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