AKANE
「あっ!!」
 朱音は懸命に守ろうとした街が燃えて灰になっていく姿を愕然として見つめた。
「どうした、街を守るんじゃなかったのか? 早くなんとかしねぇと、まじで全部灰になっちまうぜ」
 ファウストの手に握られていると思っていたのは、炎で作り出した短剣であった。
(まただ・・・、またわたしは救えないの・・・?)
 朱音は悲しみに打ちひしがれ、そして、再び人々を救えなかったことに憤りを感じていた。
 今まで殺気が一切感じられなかった黒い蒸気のような気体は一層容量を増し、嘗て地下道で見せたときのように、朱音の身体を全て覆ってしまった。そしてぐるぐると渦を巻き始めたそれは、バチバチと電気を放ち、生暖かい不気味な風を巻き起こす。
「怒れ・・・、そうだ、あの時みたいにもっと怒れ! そして本気を出せ、クロウ!!!!」
 ファウストは目論見通りに事が進んだことに、興奮を抑えることができず、額を伝う奇妙な汗をぐいと拭った。ファウストは、朱音がこうなる瞬間を待ち望んでいたのだ。
 メキメキと音を立てて地面にひびが入り、地がぐらぐらと揺れる。あれだけ晴れ渡っていた空が、いつの間にやら朱音の身体から発せられた黒い煙で雨雲ように街全体の空を覆い尽くされ、辺り一面を暗くしていた。
 ファウストは炎の剣を構えると、朱音に突っ込んで行った。
 直前で、『バチイ』と電気が走り、ファウストを邪魔したが、炎で作った防壁でそれを弾き返すと、構わずに朱音の身体目掛けて踏み込んだ。 
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