AKANE
「あなたがどうして何もかもを知っている!」
「はい、新王陛下。全てを見てきたからでございます」
 自称美容師と名乗るクリストフ・ブレロは、嘘をついている素振りは一切見せなかった。
「一体何を見ていたんだ!」
 フェルデンの強い口振りにも、怯むことなく紳士は丁寧な口調で話し始めた。
「盲目の魔笛使いが、その魔力でもってしてあの奇妙な生き物を一掃させました。その後、生き残ったサンタシとゴーディアの騎士がこの白亜城へと一斉に乗り込んできたのございます・・・。騎士達は必死で何かを探していました。けれど、百数個ある城の部屋からこの場所を特定するのは困難を極めました。わたしも、彼らが探しているものを共に探しましたが、そう簡単には見つかりませんでした。クロウ陛下はすでに深手を負っておられ、誰もが焦っていました。そんなとき我友人であるこのクイックルが、ある方法を思いついたのです。窓の外から部屋を覗いて回ればよいと・・・。恐れながら、わたくしは魔族の血を引いていて、多少の風の魔力を扱えますので、わたしと彼女は城の外から部屋を特定する方法に及びました。二頭の竜や羽のある友人の手伝いもあり、それはそう時間も掛かることなく済みました。しかし、我々が見たところ、どの部屋にも探しているものが無かったのです。それは、あることを指し示していました。探しているものは、“窓の無い部屋にある”ということを」
 クリストフの話す内容は辻褄の合うものであった。
 けれど、ここには肝心のその魔王の側近アザエルがいない。
「では、アザエルはどこへ行った・・・?」
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