AKANE
 胸が熱い。身体の奥深くから溢れる水のようにその感情がどんどん噴き出し、頭を真っ白にさせた。
“もう離れたくない”
 そんな想いが、次々に沸き起こり、回した手につい力が籠もる。
 まさか、こうして彼に新崎朱音として会える日が再び来ることなど、誰が予想していただろうか。朱音自身、ファウストの闘いの際にその希望はとっくに諦めていた。
(それなのに、今、わたしはこうして彼に抱きしめられてる・・・)
 幸せという言葉では形容できない程、朱音は喜びと安堵感に包み込まれていた。
「アカネ、君は俺のすぐ近くまで戻って来てくれていたのに、俺は・・・!」
 フェルデンが自分を許せない口調で朱音の頭上で呻くように溢した。
「本当は、俺には君をこうして抱きしめる権利などどこにも無いというのに・・・」
 朱音はするりと青年王の腕からすり抜けると、黒く澄んだ瞳を彼に向けた。
「そんなことない、貴方に自分の正体を隠して騙し続けていたのはわたしなんだよ? 貴方にその権利が無いのなら、わたしにはもっとその権利は無いよ」
 涙の雫で濡れた純真な少女の頬を、フェルデンは優しく撫でた。
「君はちっとも悪くなんかないよ、アカネ。君を守ってあげられなかったのはおれだ。おれはまだ弱く、そしてあまりに盲目だった・・・」
 悲しそうな目で見つめ返す青年に、朱音は微笑んだ。
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