AKANE
 素直な朱音の言葉に、戸惑った様子で視線をぷいと逸らすと、ロランはつっけんどんに言った。
「・・・悪かったな」
「へ・・・?」
 絶対に自分からは頭を下げたりしないこの少年が、一体何に対して謝っているのかと朱音はきょとりと瞬きを繰り返した。
「その・・・、お前を元の世界に返してやると約束しておきながら、結果的にこうなった・・・」
 朱音にとっては驚くべき事実であった。まさか、あれからロランがこのことをずっと思い悩んでいたなんて。
「ロラン、わたしは元の世界に帰ったんだよ。ただ、思いの外早く連れ戻されちゃったってだけ」
 目元を手の甲で拭い、朱音は努めて明るく返した。
「まあ、そうだが・・・。鏡の洞窟はもう力を失った。お前はもう・・・」
 ロランが全てを言い終わらないうちに、朱音は少年が何を言おうとしているのかを知っていた。
「うん、そだね。もう二度と帰れない」
 ルイとは色違いの大きな目が、僅かに細められた。
「俺を恨んでないのか」
 朱音はロランの隣にそっと腰を下ろした。湖の水面はきらきらと光を反射し、輝いている。
「なんでロランを恨まなきゃならないのよ。あなたは約束通りわたしを元の世界に送り返してくれたじゃない」
 ロランの視線が再び湖に戻された。
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