3 year 君と過ごした最後三年 (version.mystery and suspense)
「遥香さん分のお金なんだけど」
理子はそういって耳の輪郭をかいた。彼女のくせかも知れない。
「そのさんはやめない? いっしょに遊びにいったりするんだし、呼び捨てでいいよ」
「じゃあ、しんさと」
「新里(あらさと)」
「らとちゃん」
「……そこ略す?」
「るっちゃん」
「おかしでしょ」
「とっちゃん」
「あのねぇ……」
「おまえ」
「あんたは男か!」
「もぅ……」
理子は口をとがらせ肘をつき、頬をささえいった。
「はるお、はるたろう、はるすけ、はるつぐ、はるさぶろう、はるや、はるひこ、はるぞう、はるぼう、はるひで、はるさめ、はるまき、はるななくさ、に、はるいちばん! さあどうする!」
「それ……、女の子の名前じゃないよね……」
「いいかげん怒るよ!」
理子はむくれ、口をふくらませた。
「はる……。はる……。はる……。はる……。……んこ」
「んこってなに? んこって」
「はるこ!」
「……いいでしょ。それで手を打ちましょ」
「じゃあ、はるこね。決定ね」
そういい彼女は無邪気にわらっていた。
わたしは大きく呼吸をはき、それを見上げていた。
想いを背負い、濃く呼吸がもれた。それでも彼女はわらっていた。わたしもそれを見て、わらっていた。
ふたりは教室へと急ぎだした。朝のホームルーム五分前を知らせる予鈴が、鳴リはじめていた。
鳴り終わり消えかけた音韻は、耳元をすり抜け消えていった。
なにもいわず、消えていった。