マザーレスチルドレン

「あんたまじ、口利けんの?」


少女は、怒ったようにいうと、おどけてボクシングを真似た格好でケンイチの背中を軽く殴った。


ケンイチは、振り返り少女を見た。


「ヤメロ……」不意の問いかけにためらいは隠し切れず、ケンイチはやっとで答えた。


「なんだ、ちゃんとしゃべれるやん!」


少女はけらけらと笑いながら、


「ケンイチっていい名前やね」といった。


「……」


「今日はあったかくて、気持ちいい―」


少女は、ケンイチの肩越しに眩しそうな目をして窓から見える晴れ渡った空を見ている。


振り返りケンイチも窓の外を見る。


何もない田舎の風景、南の方角のこの間まで雪化粧だった山に日が当たり緑が美しく輝いていた。


春が近づいていた。


二人はしばらく並んだまま黙って外の景色を見ていた。


少女の名は、アユミといった。
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