マザーレスチルドレン
急なヘアピンカーブを通過する度にヒトミは


祈るような思いでハンドルを操った。


───ユキオ…… どうしてあんたは…… 


本当に馬鹿なんだから。


ヒトミとユキオは幼い時から仲の良い姉弟として育った。


優しい両親に見守られて。


幸せだった、あの事件が起きるまでは…… 


ヒトミ達姉弟の父親は、政府が運営している公共交通機関、


いわゆる公営バスの運転士だった。


父親は公務員として国家に貢献しているとの誇りを持っており、


政府からの手厚い恩恵も受けていた。


家族は政府支給の安全な食材で作った食事を取ることが出来たし、


裕福とは言えないまでも一家の暮らしはこの時代において十分


恵まれていたといえた。


母は若いときから体が弱かったが、普段は営業所で寝起きして


週末にしか戻らない父親の留守を守り子供達を愛する心の優しい人だった。
< 99 / 178 >

この作品をシェア

pagetop