その信頼は「死ね!」という下種の言葉から始まった[エッセイ]
 ほどなくして、演劇部に入部した。

 顧問がその嫌な国語教師だと知っていたけれど、それでも演劇をやりたかったから。


 演技指導もやっぱり厳しくて、震えるほど怖かった。

 でも、演劇部の上級生の方は、先生を大変敬っている様子。

怖いからイヤイヤ従っているのではなく、心から慕っているように見えた。


 ──何でやろう?


 日を追うごとに、段々と、わかってきた。


 演技が上手く出来たとき「そう、ようやった!」と優しい笑顔で誉めてくれる。

 授業で全く見せたことない顔。

 怖いだけの先生だと思っていたから、初めて誉められたとき、「死ね!」と言われたときとは別の意味で衝撃だった。


 部活動のことで休み時間に職員室へ行ったときも、ごく普通に優しく接してくれる。

授業や演技指導で見せる恐ろしさは微塵(みじん)も感じられない。


 ──なんや、意外と普通のええ先生やん。


 印象が変わった後も、授業と演技指導は相変わらず厳しく、張りつめた緊張感がなくなることはなかった。

 けれど、自分の受け止め方は随分変わった。
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