いつか君を忘れるまで
悪戯か?
「ええ!ミホちゃんとは何も無かったんですか?」

新刊を並べている俺の横で、清掃途中の手塚がモップを持ったまま話しかけて来た。

「お前は声が大きいんだよ。」

俺は本を並べる手は止めないまま、手塚を軽く睨んだ。

「すんません。」

手塚は、俺の視線に反射的に頭を下げた。

「彼女とは、あの後ちょっと話しただけで何もなかったよ。」

俺は、棚にPOPを取り付けながら言った。

「そうなんですか。ミホちゃん、慌てて追いかけて行ったから、良平さんてっきりお持ち帰りしちゃったのかと・・・。」

俺は立ち上がると、手塚のおデコをピシッと叩いた。

ホテルに入るまでは、その気が無かったといういえば嘘になる。しかし、あの後そういう行為はしなかった。
据え膳食わぬは・・・とは良く言うが、俺はその気が無い女の子を無理やり抱く趣味は無い。
と、言うか珍しくそういう気にはなれなかったので、『明日早いから』と言い訳をして、そうそうに切り上げたのだった。
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