天使のキス。
そんなあたしの心配をよそに、沙耶はあくまで沙耶だった。


「単刀直入に言うね。
妊娠した」


背後から聞こえてくる沙耶の声はいつも通りで、いつも通りすぎて。


あたしには、それがかえって怖かった。


こんな時くらい、沙耶の弱い面を見せたっていいのに。


あたしに付き添いを頼むくらい不安で、そんな格好をするぐらい真剣に考えているんだから。


それなのに、そんなんじゃ、五十嵐くんに伝わらないよぉ。


沙耶の言葉に対する五十嵐くんの反応が怖くて、あたしは耳を塞ぎたい気持ちでいっぱいになった。


五十嵐くんの言葉を聞くのが怖い。


それなのに――…
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