嘘婚―ウソコン―
その日の午後のことである。

園子は外回りのついでに、母方の兄が営んでいる探偵事務所を訪ねていた。

おじこと砂野史郎(スナノシロウ)は私立探偵である。

調べることには関しては一流なので、人捜しには持ってこいだ。

砂野の自宅兼事務所のチャイムを園子は鳴らした。

「はい」

しゃがれたような低い声が聞こえた。

おそらく、寝起きだったのだろう。

「シロおじさん?

わたし、園子」

「すぐに開ける」

ガチャッと音を立てて開いたドアに、中からボサボサ頭の男が出てきた。
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