嘘婚―ウソコン―
そう思っていたら、だんだんとその姿が見えてきた。

見あげるまでの長身と細身の躰に、白い肌だった。

切れ長の目が自分を見つめている。

そうだ、あの時の彼だ。

“緊張するな”と、千広に言ったあの彼である。

彼の唇が動いた。

「――俺が、周陽平だ」


ハッとなって目を開けると、夜になっていた。

枕元の携帯電話で時間を確認すると、8時を少し過ぎていた。

「――夢か…」

千広は呟いて、躰を起こした。

時間は早い。

昼寝をし始めたのが3時で、園子からメールがきて、また眠ったら8時になっていた。
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