ちぐはぐ遠距離恋愛



「な、なに、ぃ…言って」

「どもってる」




クスリと笑う先輩はあたしの腕をクイッとひいた。




「ひゃ…っ!」

「へぇ―――」




あたしは二段飛び降りて先輩の元へ。




その距離なんて…わずか数センチ。





(近い……っ)





ドキドキを通り越し、心臓はバクバクいっている。




「大野って、そんな声も出るんだ」

「へっ?」

「か〜わい」



(この先輩、大丈夫か?)


なんて思いつつ、あたしは先輩から離れた。




「さようなら」




(これ以上いたら、心臓が砕ける…)


危機感を感じたあたしは足早に教室へ戻った。




「大野、ゴメン」

「は?」




席につくと水戸が小走りで駆け寄りそう口にした。

一瞬、ポカンとまた口をあける。



「あ、別に。もういいよ」

「そっか、あの本当にゴメン」



手を合わせる水戸の左頬は少し赤くなっていた。



「それ、あたしが叩いた……」



水戸はハッと気づいてそれを押さえる。



「もう平気だよ」



女子みたいな笑顔を残して、席に戻っていく水戸。


(あんなに強い力で叩いちゃったんだ)


見るからに痛そうな赤さだった。
確かにいい音したよな。


(あたしもちゃんと謝らなきゃ)




てか、あの先輩のせいですっかり忘れてた。

(名前、何だっけ?)


高、杉……なんとか。
みたいな感じだっけ。




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