若恋【完】
そっか、奏さんのお父さんはわたしを庇ってくれたんだ…
よかった。
お父さんケガなかったんだね。うんうん。
「おい、聞いてんのか?…その後は転がったまま意識ないおまえをここに運び込んで、」
「―――腹の中の…ダメかと…思った…」
ダメかと…思った…
ポツリ。
奏さんが力なくそう言った。
ドキッ
「…お腹の、子?」
痛みも違和感もないけど、奏さんが悲壮な表情でわたしを見るものだから急に不安になった。
「…ダメ、だった、…の?」
奏さんの赤ちゃん…ダメだったの?
お腹の中の命ダメだったの?
…わたしがバカだったから奏さんの赤ちゃんダメだったの?
奏さんがお腹を撫でてくれて「無理はするなよ」って言ってたのに、わたしが言うことを聞かなかったから…
「奏さん…の、赤ちゃん…ダメだったの?」
ぶわっと涙が込み上げてきた。
宿ったばかりの命が、儚く散ってしまったんだって、そう思ったら、胸が潰れそうに苦しくて…
「ダメ…だったの…」
声にならなくて、苦しくて、椅子に蹲るようにしていた奏さんから顔を背けることしかできなかった。
頬を伝ってボロボロと雫が手の甲に落ちた。
守りたいって思っていたのに守りきれなかったんだ…
ひっく、ぐすっ
「りお、」
奏さんに名を呼ばれても、顔もあげることもできなかった。
「りお、」
もうわたしの名を呼んでもダメだよ。
「りお、…腹ん中のガキは無事だ」
………え?
「無事だ。…俺が思ったより腹ん中のガキは丈夫らしい」
「………」
「…正直…、気を失ったおまえを抱き抱えた時には…覚悟した…んだ…」