Addict -中毒-
「紫利―――」
低くくすぐるような名前が鼓膜を刺激する。
彼に名前を呼ばれただけなのに
私の体は熱く反応した。
今日だけは―――
ひとときだけは、夫じゃない男にそう呼ばれることを赦して。
この一瞬だけは―――
堕ちていく。
真っ逆さまに。
ベッドのスプリングが軋む音を聞きながら、私の頭の隅ではそんなことを考えていた。
啓人の首から下がったロザリオのペンダントが揺れるたび
まるで私の罪を咎めているみたいだった。
それでもその罪を受け入れるように、私は彼を懸命に抱き寄せた。
冷たい雨で打たれた体は
私の体温と混ざり合って―――ほんの少しだけ……
熱を帯びていた。