Addict -中毒-
何があったのか―――気になるけど、聞かないことにした。
聞いてもきっとはぐらかされるだけ。
それにもし言ったとしても本当のことを話しているようには思えないだろうから。
一瞬だけ、“アヤコ”なる女の存在が過ぎったが、
それとも違う気がした。
何ていうか―――大人の男が見せる……大人の男だけが抱えている事情のように思えて―――
それは私がいくら何かを言っても思っても立ち入れない領域のように感じて
私は何も言わずに彼の引き締まったおなかに手を回し、ぎゅっと抱きしめた。
直感―――
仕事ね。
「紫利さんってツンデレ?普段はあんなに冷めたいのに♪」
そう言って私の額にチュッと口付けを落とす。
さらりとした唇の感触が心地よかった。
「冷たいかしら?」
「すっげー冷たい。まるで氷河期。俺遭難しかけたこと何回もあるもん」
と言いつつも、彼はどこか楽しそう。
「腹減ったな~、何か食わない?」
そう言って私の首から腕を抜く。
彼の体温が離れていってしまって、私は少しだけ寂しい気持ちになった。
彼はスーツのズボンだけを履くと、枕元にあるルームサービスのメニュー表を手に取る。
することしたら、それでおしまい。冷たいのはどっちよ。
そんなこと分かりきっていたのに、妙に寂しい。
妙に悲しい。