Addict -中毒-
「アキヨみたいな子は若いお客様に人気なのだけど、何と言っても上流階級の皆様がお相手だから、あの子の面倒を見てやってほしいの」
ママはアキヨが何かしでかさないか心配なようだ。
それでもこうゆうお客様と接することで、接客の勉強を身につけさせようと彼女の意思が見てとれた。
「お役に立てるかどうか…」私は曖昧に微笑んだ。隣の萌羽も、さすがにママの前では笑顔を取り繕っている。
ママは私たち二人をゆっくりと眺めて、穏やかな笑みを浮かべた。
「ああ。やっぱりあなたたち二人が並ぶと、本当に華があって場が明るくなるわ。月香に頼んで正解だったわね」
それだけ言うと、ママは他のホステスに呼ばれて行ってしまった。
私たちは会場に向かう前に、化粧室に立ち寄った。
さすがに高級ホテルだけあって、綺麗で手入れが行き届いている。
磨きこまれた大きな鏡がはまったドレッサーで口紅を直しているときだった。
一段と明るい声が出入り口で聞こえ、私も萌羽も同時に顔を向けると若いホステスたちが塊になって現れた。
その中の一人…明るい茶色に染め上げた長い髪を綺麗に巻いて、ピンクのひらひらしたドレスに身を包んだ若い女の子が私たちに気づいた。
「あら?萌羽姉さん。早いんですね~。気合い入りまくり?」
ほとんど顔を忘れてたってのもあるけれど、私が勤めていた頃より化粧がうまくなり垢抜けしていた彼女がアキヨだと言うことに気付いた。
アキヨは敵意剥き出しで、萌羽に笑いかけている。
その美しくない笑顔は、厚塗りした化粧さえも崩してしまいそうな醜いものだった。
アキヨはこんな子だったかしら―――
まだ化粧のし方すら満足に知らない、田舎っぽさが残った幼い彼女の方が美しかった気がする。
「あなたこそ。まだお目当ての息子さんは到着してないようよ?」
萌羽も負けじと言い返す。
アキヨが意地悪そうに「ふふん」と笑って、私に視線を向けてきた。