Addict -中毒-




何もかも分からなかったのに―――何もかも一つに繋がった気がした。


彼が実は育ちのいいことを隠したがっていたこと。


お金持ちだって言うことをあからさまに自慢しなかったこと。


そして―――






『あなたは別れた家内に少し雰囲気が似ていらっしゃる』






ふいに会長の言葉が過ぎり、私は最後の謎がようやく解けた気がした。


啓人が私に執着するわけを―――……


気付いているのかしら?気づいていても彼はそれを受け入れようとはしないわね。


天邪鬼のぼうやだから。


クスッと小さく笑みを漏らすと、啓人は不思議そうに私を見つめてきた。


「なに?」


「何でもないわ。ただ、ちょっとあんたが可愛く思えただけ」


啓人は心外そうにするかと思いきや、彼は口の端に笑顔を浮かべた。


「月下美人てさ、こんな夜に花を咲かせるんだろうな」


何かを考えるように物憂げに遠くの方に視線を投げかけ、啓人がぽつりと漏らす。


「今は冬よ。月下美人は夏に咲く花よ」


「でも紫利さんの家にはあったじゃん。液体に入った月下美人。何あれ。ホルマリン漬け?」


「そんなわけないじゃない。あれは焼酎よ」


「焼酎?へぇ飲んでみたいな。どんな味がするんだろ」


啓人がちょっと子供のような無邪気な笑顔を浮かべた。


私はその隣でそれを眺めながらも、


「あれはダメ」と答えていた。


「何で?」





「あれは旦那にもらった花だから」








< 180 / 383 >

この作品をシェア

pagetop