Addict -中毒-
「何なのあんたは。私はガキの遊びに付き合ってる暇ないの」
うんざりしたように手を振る。鬱陶しい何かを払うように。
すると、彼はその手をおもむろに握ってきた。
「奥さんだったんだ」
彼の視線の先は私の左手の薬指で光る指輪に向けられていた。
プラチナの台座に1・3カラットもの豪華なダイヤをあしらった300万近くするリング。
マリッジリングとエンゲージリング、二つも要らない。と蒼介に言ったら、その二つを兼ねる意味合いでこのリングをくれた。
「そうよ。だからあんたと遊ぶ気はないわ」
ぞんざいに言って手を払うと、彼は諦めるどころか、どこか嬉しそうに頬を緩めた。
「いいね。気が強い女、俺好きよ?」
悪かったわね。気が強くて。
って言うかしつこい!
そんな私の気持ちに気づいたのか、彼はようやく手を離してくれた。
これでようやく開放される。
そんな思いで、今度こそ彼に背を向けようとしたとき、彼はちょっと屈むと出し抜けに私の首筋に顔を寄せてきた。
びっくりして体を強張らせたが、彼は顔を近づける以上のことをしてこなかった。
ゆっくりと顔を元に戻すと、少しだけ色っぽく目を細めた。
「ナイトクイーンか。なるほど中毒になりそうだ」
思えば、この瞬間―――
私は恋に堕ちたのかもしれない。
短い夏の夜に咲き誇る、あの儚い月下美人のように。