Addict -中毒-
啓人は目を細めてウィスキーたちを眺めると、顎に当てていた手でボトルたちの間をふらつかせた。
彼の指先がボトルたちの間を彷徨って、ふいにその先を私に向けた。
ちょっと目を開いて彼を見据えると、
「俺はこれがいい」と色っぽく笑って、私の元へ歩いてくる。
「答えになってないわよ」と笑い返すと、
「そうかな?口に含んだら極上の味がする」と啓人は私の首元に顔を埋めてきた。
「上手に交わすぼーやだこと」思わず笑みが洩れると、啓人が顔を離した。
同じように薄く笑って、私を覗き込むかと思ったら力強い腕で引き寄せられ、荒々しく口付けをされてチェストに打ち付けられる。
特にどこか打ったというわけではないけど、その乱暴な仕草がワルい男の雰囲気をかもし出していて、私の心に荒々しくも恋の波を呼んだ。
啓人が私の顔を覗き込み、少しだけ睨んだ。
その左右で違う宝石のような瞳の奥に―――でもそれは私の知ってる啓人のものではなかった。
欲求を牙のようにむき出しにしているのに、無邪気な子猫のようでもあるし、
凶暴な唸り声をあげているようなのに、その反面酷く甘い囁き―――
「俺を年下のお坊ちゃまだと思うなよ。
あなたよりでかいし、力だって強い。
その気になれば簡単に押し倒すことだってできるし、
あなたをこのつまらない世界から連れ去ることだってできる」