Addict -中毒-



私はそんな野生的な啓人の胸元に手を這わして、彼を見上げた。


見上げたまま彼のタイを少しだけ解くと、




「連れ去ってよ。ここじゃないどこかへ」




小さく頷いた。


啓人の瞳が獣めいた眼光を放っていたものから、まるで静かな月夜のような―――何もかも包み込む、それでいて何もかも見守っているような


温かいものに変わり、再びキスが落ちる。


キスをしながら私は啓人のタイを引き抜く手に力を入れた。だけどそれよりも早くに彼の手が後ろに回り、複雑な結び目をしている帯を解いていく。


ちょっと顔をしかめて「早業ね」なんて言うと、


「それだけしか特技がないぼーやですから」と啓人も笑った。


「そんなことないわよ?」


ちょっと笑顔を返すと、彼はいつの間にか帯を完全にほどいていた。


私の足元に、まるで蛇の脱皮のあとのように帯が落ちて渦巻いている。薄紫色の単衣長着姿になり、啓人はそれを眺めると笑みを漏らした。


「帯びの下にもう一種類も帯があるんだね。苦しそう」


「伊達締めって言うのよ。着崩れしにくいの」


「こないだはなかった」


言われて「ああ」と思い出す。別に伊達締めがなくても着物は着れるし、腰紐一本で着ることも可能だ。


「今日は特別な日だから、きっちり着たの。でも…覚えてたのね。私が酔っ払ったとき介抱してくれたときのことでしょ?」


「そりゃ覚えてるさ~。紫利さんは寝てても綺麗だったから思わず見惚れちゃった」


「口が上手いぼーやだこと」


「だからガキ扱いするなって…」と言い終わらないうちに私は啓人の胸を乱暴に押した。


気を抜いていたのか、啓人は思ったよりも簡単によろけて、すぐ近くにある大きなベッドに足をぶつけると、そのままベッドに腰かけた。






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