Addict -中毒-
私の挑発にも、彼は薄く笑っただけだった。
「もう一度チャンスをくれるの?」
しまった…
私としたことが。
彼に口実を与えてしまった。
次の断り口を考えている最中に、彼は再び壁に腕を突いてあたしを見下ろしてきた。
透き通るような淡いグレーの瞳が私を捉える。
抗えない―――強い視線。
「ねぇ名前教えて?」
「いやよ。知りたきゃ自分で調べて」
「いいの?俺結構しつこいよ」
それは分かってる。
「また来る?」
「さあね」
「また会うよ。これはそれまで人質」
彼はそれまでの色っぽいものではなく、少年のような無邪気な笑顔を浮かべて私が貸したハンカチを唇にあてた。
その子供のような笑顔に、思わず私の警戒心が薄れる。
「あなたにあげるわ。社会人ならハンカチぐらいもちなさいよ」
「はぁい」
彼は素直に頷いた。
何だろう…ちょっと、可愛いじゃない。
「でも持つんなら自分で買うよ。これはあなたのだ」
またも不敵に笑って目を細めるその表情に、私の心臓が大きく跳ね上がった。