Addict -中毒-
さすがにこの後どこかへ出かける気力もないし、そもそも開いている店なんて限られている。
高校生デートは終わりを告げようとしていた。
楽しかった。
でも、どんなに楽しいことにも終わりがある。
楽しいときは刹那的なものだけれど、長い日常で日々を淡々と過ごしているからこそ、この一瞬を思い切り楽しめるのだ。
メリハリ、なんて割り切るのは簡単だし、いつだってできる。
今の私たちに割り切る言葉はたった一つ。
「……帰りましょうか」
私が呟いてギアを目配せするも啓人はシートベルトもつけずにハンドルに顎を乗せた。
前を向いたまま、私の手にそっと手を重ねてくる。
温かい手のひらだった。
「まだ、高校生デート終わってないぜ」
啓人は私の手を握ったり離したりの動作をゆっくりと繰り返し、口元に淡い笑みを浮かべて私を見てきた。
「終わってない……って、どうするつもり?もうお店だって開いてないし」
「中途半端な時間じゃん?高校生だったらこうやって手を握り合って始発の電車を待ってるってお決まりのパターンじゃね?」
「……は?始発?」
意味が分からなくて、目をぱちぱちさせると、
「もう少し……そうだな。夜が明けるまでこうやってこのまま手を繋いでさ―――
ゆっくりと眠ろうよ」
啓人が少しだけ寂しそうに笑った。