Addict -中毒-



だから彼女には何でも喋れる。


私は彼女に、先日の若い男にナンパされたことをかいつまんで話した。


もちろんキスされたことは黙っていたけれど。


特に真剣に相談に乗ってもらうつもりはなく、会話のつまみに出しただけだった。


だけど萌羽の反応は思った以上のものだ。


「いいなぁ。若い男の子。月香姉さん美人だものねぇ。私なんて寄ってくるのはおっさんばかりよ」


萌羽は羨ましそうに目を細めると、遠い目をした。


「ちょっとからかわれただけよ。三十女が一人であんなバーに居るのが珍しかったんでしょう?」


私は笑ってコーヒーのカップに口を付けた。


「そうかなぁ。月香姉さん若いし、色気あるし。女の私でもちょっと見惚れるぐらいだよ?男が放って置かないって。それなのに、姉さんたらあんな冴えない中年男と結婚するんだもの」


萌羽は、まるで自分のことのように残念がった。


確かに蒼介は冴えないだろうけど、私が惹かれたのは彼の見てくれじゃない。


もちろんお金や地位でもない。


彼の純粋でひたむきな愛情だった。




それは今も変わらない。



だけど……



私は時々…本当に一瞬だけど、あの優しい彼に何か物足りなさを感じる。


それは―――




燃えるような恋心。




私はそっと唇に手をやった。





「で?その若い男ってのはイケメンなの??」萌羽がワクワクしたように聞いて来る。


「さぁ。でも可愛い顔をしてたわよ?」


本当はかなり素敵だった。


「可愛い?ジャニーズ系?それともホスト系??」


そう言われても……


あの―――見る者を惹きつけてやまない、華やかなオーラ。


完成された彫刻のような整った顔。




「敢えて言うならば、モデルかしらね」





雑誌とかに載るモデルじゃない。私が指したのは美術品の一種。


そう




観賞用にしておくには、素晴らしい出来だわ。




< 29 / 383 >

この作品をシェア

pagetop