Addict -中毒-
だから彼女には何でも喋れる。
私は彼女に、先日の若い男にナンパされたことをかいつまんで話した。
もちろんキスされたことは黙っていたけれど。
特に真剣に相談に乗ってもらうつもりはなく、会話のつまみに出しただけだった。
だけど萌羽の反応は思った以上のものだ。
「いいなぁ。若い男の子。月香姉さん美人だものねぇ。私なんて寄ってくるのはおっさんばかりよ」
萌羽は羨ましそうに目を細めると、遠い目をした。
「ちょっとからかわれただけよ。三十女が一人であんなバーに居るのが珍しかったんでしょう?」
私は笑ってコーヒーのカップに口を付けた。
「そうかなぁ。月香姉さん若いし、色気あるし。女の私でもちょっと見惚れるぐらいだよ?男が放って置かないって。それなのに、姉さんたらあんな冴えない中年男と結婚するんだもの」
萌羽は、まるで自分のことのように残念がった。
確かに蒼介は冴えないだろうけど、私が惹かれたのは彼の見てくれじゃない。
もちろんお金や地位でもない。
彼の純粋でひたむきな愛情だった。
それは今も変わらない。
だけど……
私は時々…本当に一瞬だけど、あの優しい彼に何か物足りなさを感じる。
それは―――
燃えるような恋心。
私はそっと唇に手をやった。
「で?その若い男ってのはイケメンなの??」萌羽がワクワクしたように聞いて来る。
「さぁ。でも可愛い顔をしてたわよ?」
本当はかなり素敵だった。
「可愛い?ジャニーズ系?それともホスト系??」
そう言われても……
あの―――見る者を惹きつけてやまない、華やかなオーラ。
完成された彫刻のような整った顔。
「敢えて言うならば、モデルかしらね」
雑誌とかに載るモデルじゃない。私が指したのは美術品の一種。
そう
観賞用にしておくには、素晴らしい出来だわ。