Addict -中毒-


十八で上京して以来、結婚するまで私に自由な時間はほとんどなかった。


結婚して蒼介が思った以上に多忙なことに気がつくと、私は気ままに国外旅行をした。


ヨーロッパ、東南アジア、アメリカ……色んな国を回った。


今はそれがささやかな趣味とも言える。


今回はスイスに行こうと決めていた。


高級スパリゾートがあるホテルで一ヶ月ほど滞在して、身も心もリフレッシュしたらあの男のことなんてすっかり忘れる。


そう思い立って荷造りをしていると、何日かぶりに蒼介から連絡があった。


『紫利ちゃん、僕だけど。今日帰るよ』


「ちょうど良かった。私も旅行に行くつもりだったの。少しでも蒼ちゃんの顔みたいと思ってたのよ?」


『旅行?また随分急だね』


「ええ。急に思い立ったから。本当は今日出発する予定だったけれど、明日にするわ」


『ごめんね』


蒼介は控えめに謝った。


自分の家に帰るってのに、何で謝る必要があるのかしらね。


それが可笑しくて私はちょっと笑った。


『今さ、院生の学生と居るんだ。家に来たいって言うから呼んでもいいかな?』


「学生?」私はちらりと時計を見た。


夕方の四時を差している。


「じゃあ丁度お夕飯どきね。何か作るけど、何がいい?」


『何でもいいよ。簡単なもので』


分かったわ。そう返事をして電話を切った。



正直―――私は彼が学生を連れてくることに、いい顔はできなかった。







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