Addict -中毒-


「いいなぁ。藤枝先生はこんな若くて綺麗な奥さんを貰って。おまけに料理も上手だし」


私の作った散らし寿司を食べながら、しきりと相澤は私を褒める。


これが本心でなくお世辞だったらどれだけ楽か。


「若くて綺麗?まだそんなこと言ってくれる男性がいたのね」と私は会話をさらりとかわし蒼介の方を眺め、蒼介はうっすら笑った。


「そんな、ご謙遜を」と相澤はニヤリと意地悪く笑う。


今度は私は適当に相槌を打つ程度に押しとどめ、それに関しての話題を断ち切った。


来る学生ってのが相澤だと分かっているならば、散らし寿司の上に乗せた中トロを、マグロの赤身にすれば良かった。


なんて考えてる私。


「失礼。お手洗いをお借りしても?」


相澤が席を立ち上がる。


「場所は分かるかしら?」建前で聞いてみる。


「前一度借りたけど、忘れちゃいました。案内してくれます?」


そう来ると思った。


「あなた、案内してさしあげて。私はお酒の用意をしてくるわ」


にこにこ切り返すと、相澤は悔しそうに表情を歪めた。




まだまだね。


そんなんで大人の女が簡単に手に入ると思わないでよ。




だけどあの若い男は、意図も簡単に私の心を鷲づかみにした。


そして、今も尚彼は私の心臓を握り続ける。


振り払いたいのに、振り払えられない。







そんな思いを押し隠し、私はにっこり笑顔を浮かべた。





< 35 / 383 >

この作品をシェア

pagetop