Addict -中毒-
「いいなぁ。藤枝先生はこんな若くて綺麗な奥さんを貰って。おまけに料理も上手だし」
私の作った散らし寿司を食べながら、しきりと相澤は私を褒める。
これが本心でなくお世辞だったらどれだけ楽か。
「若くて綺麗?まだそんなこと言ってくれる男性がいたのね」と私は会話をさらりとかわし蒼介の方を眺め、蒼介はうっすら笑った。
「そんな、ご謙遜を」と相澤はニヤリと意地悪く笑う。
今度は私は適当に相槌を打つ程度に押しとどめ、それに関しての話題を断ち切った。
来る学生ってのが相澤だと分かっているならば、散らし寿司の上に乗せた中トロを、マグロの赤身にすれば良かった。
なんて考えてる私。
「失礼。お手洗いをお借りしても?」
相澤が席を立ち上がる。
「場所は分かるかしら?」建前で聞いてみる。
「前一度借りたけど、忘れちゃいました。案内してくれます?」
そう来ると思った。
「あなた、案内してさしあげて。私はお酒の用意をしてくるわ」
にこにこ切り返すと、相澤は悔しそうに表情を歪めた。
まだまだね。
そんなんで大人の女が簡単に手に入ると思わないでよ。
だけどあの若い男は、意図も簡単に私の心を鷲づかみにした。
そして、今も尚彼は私の心臓を握り続ける。
振り払いたいのに、振り払えられない。
そんな思いを押し隠し、私はにっこり笑顔を浮かべた。