Addict -中毒-
「私、名前教えたっけ?」
彼はエルディアブロを一口飲み、そして目を細めた。
「教えてないよ。俺、エスパーだから♪」
「何言ってんのよ。どうやって調べたの?」
私は呆れたように聞いた。
すると彼は軽く肩を竦めてちょっと笑った。
「マダム・バタフライにつてがあるんだ。って言っても店の方じゃなく、客にね。そいつに教えてもらったってわけ。
源氏名は月香って言うんだね。
そっちの名前も綺麗でいいじゃん」
私は素直に微笑んだ。
彼に言われたことがどうしようもなく、嬉しくて。
まるで恋を知ったばかりの少女のように、心を跳ね上がらせて。
だけど恋をしてはいけない。
彼にはこうしてお酒を飲む相手なんて捨てるほどいるだろうし、
この先のベッドを共にする女だってたくさんいるだろう。
私は数多いる、彼の相手になるのはごめんだ。
私は左手薬指のリングをそっと触れた。
私には蒼介がいる。
蒼介を捨ててまで、この歳若いオトコに走る勇気と覚悟は
私にない。