Addict -中毒-
冷え切った目。
冷たい視線。
灰色の瞳が、またも水の色を浮かべている。
以前に彼が女と言い合いしていたときの、あの感情のない目だ。
何故そんな顔をするの?
何故そんな目で見るの?
何故……
問いたかったけれど、私は言葉を飲み込んだ。
これ以上深くに入っていけない気がした。
そこが誰もが立ち入れない彼の禁域の気がしたから―――
「詳しいのね」
結局それだけ言って留めておいた。
「パリでオペラを見たんだ。あんまり興味がなかったから欠伸が止まらなくてさぁ」
彼はいつもの調子を取り戻し、わざとおどけてみせた。
パリでオペラ鑑賞なんて、随分優雅な趣味をお持ちだこと。
心の中で皮肉ったが、その考えは私の口から出てこなかった。
ねぇ
あなたは知ってる―――?
蝶々夫人が何故自害したのか?
ひたむきで純粋だった彼女が、愛する夫に手酷く裏切られたからよ。